蜻蛉日記 和泉式部日記
円地文子(訳)ちくま文庫
蛉のようにはかないのだろうと思うあなたに:★★★★★:上田假奈代

「嘆きつつひとり寝る夜の明くる間はいかに久しきものとかはしる」
(あなたが来るかもしれない思いながら、ひとりで眠る夜の長さといったら、あなたにはわかんないでしょ)
この歌は百人一首に納められていて、なぜかわたしはこの歌を暗唱できる。
なんだかねちっこそうで嫌な女だな、と思っているはずなのに。
作者は右大将道綱母(うだいしょうみちつなのはは)。
ともかく、この女が「蜻蛉日記」の作者である。
当時、流行の古物語が現実離れした作りごとばかりで、人生にはそんな奇蹟や幸福があることはなくて、
人並みでもないわたしの生身の日記を書き綴ってみたら、かえって風変わりかもしれない、
と始まる日記の作者は、人並み以上の女である。絶世の美女で、
なおかつ陸奥守藤原倫寧を父に持つ名家の娘であった。
ところが、まあ、けっこう不憫な「妾人生」を歩む。プライドが邪魔して好きな男に素直になれないのだな。
今も昔にも、よくある話である。
ただ、今と違って男女は歌をかわす。この日記のなかにもその歌のやりとりが描かれている。
行間には、はかなく、けれどコケテッシュで、機微に富んだ愛情が見えかくれしている。
夜の湖のうえの月のような。