紙芝居劇むすび

紙芝居劇むすび イギリス公演報告

このたびは紙芝居劇むすびのイギリス公演に、たくさんのみなさまのご協力やご理解をいただきまして、おかげさまで紙芝居の公演や現地での交流は大成功をおさめ、無事全員帰国することができました。心より御礼申し上げます。ここに、イギリスでの様子をお知らせするために、簡単ではございますが、報告書を作成いたしましたので、御覧ください。
今後ともみなさまのご支援を承りますよう、よろしくお願い申し上げます。

協力:NPO法人こえとことばとこころの部屋
参加者:浅田浩・中井倖司・高畠春雄・婦木廣文・中山進
同行者:西森琢・国政賢治・田中裕之・石橋友美
留守番:作村年一

ロンドン日記

7月24日

ほとんどのおじさんにとっては初めての国際線。セキュリティチェックでは大きなお兄さんにボディチェックされたり、おじさんたちは緊張気味。飛行機ではビデオの見方がわからないし、狭いし、12時間忍耐強く待った。機内食も初体験。「おいしいんだか まずいんだか わからないね」と感想。さすがにリーダーの浅田さんは狭い機内でもぐっすりと眠って、元気の秘訣を教えられた気がする。
空港からロンドン市内のホステルまでも長い道のり。着いたころにはみんな疲れて、早々に部屋に引き揚げて行く人も。
水や明日の朝食を買いに行くと、フェスティバルの会場である教会の前にホームレスの集団が。「タバコくれ」「小銭くれ」と陽気に話しかけてくる。その雰囲気を見て「なんか西成と一緒やなぁ」と思う。

7月25日

早朝からスターバックスでお茶してきたという中山さんが「ぶんちゃんの夢をみた」という。そうそう、紙芝居しに来たことを忘れそうになっている一同。みんな起きて来る。誰も時差ボケしてないようだ。「もともとボケてるからこれ以上どうにもならない」という説は本当か?日本語の上手なHeidiさんの案内でバスツアーに。2階建てバスから見るロンドンにおじさんたちはうっとり。中井さんは「前のカップルがいちゃついて…!」と景色どころではなかったそうだ。昼食はでっかいジャガイモのオーブン焼き。おいしい、おいしいとほとんど平らげたおじさんたち。食欲も落ちていない。
 ロンドンではトイレが少ないので困った。コインを入れて入る有料トイレも体験した。テムズ川沿いを散策しているとビッグイシュー販売員を発見。ソマリアから来たという。1冊£1.5。ちなみに現在£1は250円ぐらいだ。夕方日本語が少しできるというSteveさんが訪ねて来る。おじさんたちは「なんでイギリス人は信号が赤でも道を渡るんだ?」と質問をしたり、「歌声喫茶知ってるか?」「夏目漱石知ってるか?」と会話ははずみ、3時間も話し込んだ。

7月26日

昨夜廊下でずっとヒタヒタと足音がするので「ややっ ロンドンのゴーストか!」と思いきや、それは寝ぼけた中井さんだった。かわいそうに、部屋がわからず彷徨っていたらしい。声をかけて部屋に入れてあげたのだが、何も覚えていないようだ。婦木さんが「貼り薬を買いに行ったんだけど 黒人の店員が『店はまだや』言うから」と帰ってきた。もうおじさんたち自然に一人歩きをしている。さすが!
午前中は大英博物館へ。エジプト関連の展示を中心に見ているうちに中井さんを見失う。一同、青ざめて探したが、結局本人は待ち合わせ時間にはきちんと一人でロビーまで戻っていた。取材があるのでホステルに戻る。元BBCにいたというMikeさん。TVの社会派番組で日本のホームレスについて取り上げたいからと、話を聞きに来た。高齢者や病人がホームレスにならざるをえないという日本の実態を不思議に思ったそうだ。おじさんたちは物おじせず、脱線を恐れずにどんどん発言する。
その後はフェスティバル会場でオープニングパーティー。むすびを紹介する時「彼らを紹介させていただくのを光栄に思います」と司会者の前置き。むすびはゲストの中でも、特別な視線をいただいているようだ。この日のために用意した「釜ヶ崎ダンス」に、すごい拍手が起こった。

7月27日

同行の若いスタッフもおじさんのペースでくつろいでいる。婦木さんいわく「もう、すっかり『むすびっこ』やなぁ」このホステルは8個の個室(トイレ・シャワー付)が一つの単位でアパートメントになっていて、アパートメントごとに談話室(キッチン付)がある。部屋で休んでいないときは談話室でみんな延々と話をしていた。米を仕入れて炊いて食べたり、なんとも癒しの空間となり、このままみんなで住んだらいいかも、なんて思ったり。
午後から会場へ。婦木さんが絵を描いていると、それをくださいという女性が。初めてのクライアントに、婦木さん緊張。そのままワークショップに突入する。「城」「こけし」など婦木さんが描いたワンポイントの絵に想像力を駆使してさらに絵を付け加えながら話を作っていく、というもの。2人のイギリス人に1人のオランダ人が参加してくれた。
また、高畠さんが趣味の茶道のお点前を披露するので、裏庭へ。フカフカの芝生の上、準備をしていると、さっそく人が並び始める。お客さんは神妙な面持ちになり、神聖な気持ちでお茶をいただいていたようだ。お茶も「おいしい」「さわやか」「豊かな味」と大好評。去っていく時、高畠さんに手を合わせて行くお客さんたち。
教会の番人のおじさんが、地下を案内してくれた。第2次世界時、この教会にもドイツ兵が攻めてきた。しかし番人のおじさんは「ここで若いドイツ兵も無意味に命を失った。それを思ってときどき泣くんだ」と言った。婦木さん、「そうや!人間にはへだたりなんかあらへんのや」と応える。

7月28日

午前中は最後のフリータイム。ロンドン中を見渡せる「ロンドン・アイ」という観覧車に乗るチーム。再度大英博物館に行くチーム(浅田さんは結局3日間博物館に通った。)、その他に分かれて行動。みんなけっこうロンドンが気に入って、「住みたい」という人も。高畠さん「人がゆったりと歩いているなぁ。特に落ち着いた夫婦づれが多い」と感想を漏らしている。ほんとに、このゆったり感は日本に持って帰りたいほどだ。
午後は2つに分かれる。プレゼンテーション組と、ホームレス支援施設見学組だ。プレゼンでは、釜ヶ崎のこと、むすびのことを紹介した。会場から「日本ではまだ高齢者は敬われていますか?」と質問が。「Yes」とも「No」とも答えにくい。他にはパリ・ブエノスアイレス・サンクトペテルブルク・ユトレヒト・東京・ブタペスト・バルセロナ・イギリス国内の団体の発表があった。ストリート紙やワークショップなどで、ホームレスの人の表現機会提供を実践している。共通していたのは「ホームレスの人を見て何かせずにはいられなかった」という気持ちだ。
他のチームはSt.Mungo‘sというホームレスの支援施設に行って見学と交流をしてきたそうだ。家事トレーニング・ジョブトレーニングなどを経て社会に戻る人、そこに居場所を見出して終の棲家とする人など、選択肢が多様だそうでそのへんの受け皿がやはり大きいなと感じる。
 さて、今回の旅のメインイベント。紙芝居の発表の時間がやってきた。英語対応のために、協力者が紙芝居の絵に英語字幕入ったパワーポイントを作成してくださった。そのセッティングも終わり、おじさんたちも気持ちを高めていく。いよいよ紙芝居が始まると、そのへんにいるスタッフの人も舞台に釘づけになっている。「鬼のパンツ」いつも3秒は曲から置いて行かれるおじさんたちが、しっかり曲に付いていっている!歌に大声援が飛んでくる。その後も落ち着いて演じきったおじさんたちに、口笛やら「Bun Chan」コールやら「Bravo!」やらが飛び交って、紙芝居は大いに喜んでもらえたようだ。あまりに拍手がすごいので、いつもはクールな中井さんも「思わず一緒になって手を叩いていた」そうだ。そして「病みつきになりそう」と中山さん。
数日間もいると、すっかり他国の参加者たちとも仲良くなり、家族のような連帯感が生まれてきていた。おじさんたちも、みんなから大事にされて、たくさんのコミュニケーションがあり、心の充実も大きかったに違いない。去るとなると寂しさがこみあげたけれど、お世話になった人たちに別れのあいさつをして会場を後にする。

7月29日

5:30起床。談話室にいくと婦木さんがすでに「掃除しといたでー」と余裕の表情。タクシーにて空港へ。今回イギリスの物価の高さを思い知った。普通のタバコが1箱1000円以上するし、地下鉄の1週間パスが7000円ぐらいする。観光地はどこも入場料が3~4000円ぐらいするので、今回観光は無料のところを中心に行った。みんなもお小遣いがすぐになくなっておみやげも買えなくなっていたが、最後に残したお金で、日本で待っているもう一人のメンバー・作村さんだけにはおみやげを買おうということになった。だいぶ慣れた飛行機の旅で日本へ。

今回の海外公演の実現を目の当たりにしながら、これは逆にわたしたちの夢を叶えるために、おじさんたちが体を張ってくれているのではないか、そんな気がした。社会の中で悩む世代に、自然体で生きることを見せてくれているおじさんたち。いろいろな考えがあって、いろいろな状況があるけれど、人を大事にして、その場その場を乗り越えていく。その中にも楽しみはあるさ、という姿勢。生きていく勇気に変えていきたい。 また今回のプロジェクトの実現のために奔走してくださったココルームのみなさん(自分たちも大変な時に)、たくさんの寄付や励ましをくださったみなさん、おかげさまでとても心強く、とてもあたたかい気持ちで行って帰ってくることができました。ありがとうございました。

報告者:石橋友美(むすびマネージャー)

収支報告

<収入>

国際交流基金 助成金:1158000円
大和日英基金 助成金:240000円     
寄付:447585円
計:1845585円

<支出>

飛行機代・保険代:1570000円
むすびパスポート取得費用:61000円
国際小包送料:30500円
録画・録音メモリなど:14689円
茶道道具:7350円
国内交通費:14240円
ロンドン市内交通費:101675円 
食費(水・朝食材料・米など):15823円
外貨両替手数料・差額など:6328円
レンタル携帯電話2台:15000円
計:1836605円

残金8980円

※宿泊費はイギリスのフェスティバル主催者に負担していただきました。
※残金はこの報告書の作成・送付代金・写真や映像データの保存費用
8月13-15日の三角公園夏祭り屋台費用に充てさせていただきます。

また今年の秋~冬頃 映像やおじさんたち自身の感想を聞く報告会の開催を予定しています。またお知らせさせていただきますので、お楽しみに!