ココルームに社会調査研究班が産声をあげました。地域に根差した活動をするためには、その地域のことを知らなくてはなりません。日々営むイベントやさまざまな活動を展開するうえでも、地域への深い理解が不可欠であると考えられます。こうした目的意識のもと、社会調査研究班が設立されました。
2011年12月より、三井住友福祉財団の助成を得、釜ヶ崎をフィールドとした単身高齢者の死をめぐる研究を開始しました。本研究プロジェクトの詳細は以下のとおりです。
【研究テーマ】
「無縁社会」における高齢単身者の死に関する研究:大阪市西成区釜ヶ崎を事例として
【研究概要】
本研究は、高齢単身者が多く居住する大阪市西成区釜ヶ崎(あいりん地区)をフィールドとし、高齢単身者の死の迎え方、葬儀のあり方、ならびに宗教団体や市民組織による高齢単身者の死や葬儀にかかる取り組みに関する実地調査をとおして、「無縁社会」における死の迎え方や新しい葬儀のあり方を考えるための基礎研究をおこなうことを目的とする。
研究の方法としては、人類学的・社会学的なフィールドワークとあわせて、臨床哲学的な視点、実践に携わる者のアクションリサーチも組入れる学際的な方法をもつものである。
「無縁社会」化が日本全体で進行する現在、人の死という問題に焦点をあてつつ、「縁」=「人と人の繋がり」のあり方を探究する本研究は、変容の過度期にある現代日本社会における新たな価値観を創出することが期待でき、その社会的意義はきわめて高い。
【研究の背景】
現代の日本社会を特徴づける重要なキーワードのひとつとして「無縁社会」をあげることができる。日本が近代化するなかでつくりあげてきた諸制度が、いま綻びを見せつつある。私たちはいまそのことに気づき始め、深刻な社会不安のなかにある。
綻びを見せはじめている、そのひとつが家族制度である。私たちが現在、あたりまえと思っている家族のかたち、もしくはイエ制度は、明治以降、国家政策と連動しながら成立した側面をもつが、経済構造の変化や少子化・非婚化の流れのなかで大きく変質しようとしており、家族を基盤とした人と人の繋がりのかたちが従来通りでは機能しなくなっている。そうしたなか、葬送のあり方も転換期を迎えている。「無縁社会」が問題視される点として、人の死の迎え方、対処の仕方が、社会の変化に追いついていないという事実がある。
本研究が対象とする大阪市西成区の通称・釜ヶ崎と呼ばれる地域は、高度経済成長期以降、労働力供給源として発展してきた。そのため釜ヶ崎では、単身男性の人口に占める割合がきわめて高く、人口の高齢化がすすむなか、「無縁仏」や「孤独死」が問題となっている。そのようななか、葬送や墓制のさまざまなかたちが模索されており、また宗教者や支援者らによるさまざまな取り組みもすすめられている。こうした状況は、「無縁社会」化が進行する日本の将来を先どっているといってよい。
釜ヶ崎における「死」をめぐる実態把握を目指す本研究は、釜ヶ崎に暮らす人びとの実践を提示し、日本社会全体に発信することをとおして、私たちの、葬式や家族に対する固定化した価値観の逆転を企図するという狙いをもつ。そしてそれは、従来の論理にとらわれない新たな繋がりのかたちを探究する試みでもある。「死」をみつめることは、「生」を考え直すことである。
【プロジェクトメンバー】
岡本マサヒロ(特定非営利活動法人こえとことばとこころの部屋)
西川 勝(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター)
石橋友美(紙芝居劇・むすび)
白波瀬達也(大阪市立大学都市研究プラザ、西成市民館)