■リンク4「希望のフェスティバルゲート」

大隅要(有限会社ソシアルラボ代表取締役/関西学院大学地域・まち・環境総合政策研究センター客員研究員)

○はじめに

NPO法人こえとことばとこころの部屋が事業主体である「フェスティバルゲート公共利用案提案競技」会議に参加させていただいた。「ソーシャルインクルージョン」という興味深いテーマと、関わる面白い人たちに吸い込まれたのが本音のところである。私はこれまでフェスティバルゲートに遊びに来るどころか、通り過ぎたこともない人間である。だからこそ、客観的な立場として、少しばかし「希望のフェスティバルゲート」について書きたいと思う。

○本提案について

今回の提案事業名は「アート&ソーシャル・インクルージョン創造的公益事業モデル創出事業」とある。私の解釈では、「個人・企業問わず、さまざまな利害関係者が、さまざまな社会的課題を解決するプロジェクトを作り上げていくもの」と考えている。全体のスキームとしては非常に素晴らしいものであり、「かゆいところに手が届く」、「待ってました!」という拠点の誕生である・・・といいたいところであるが・・・ゆえに困難さもつきまとう。上記であえて「さまざまな」という言葉を連ねたが、これがやっかいなのである。マーケティング的視点からいえば、STP(セグメント、ターゲット、ポジショニング)が明確ではないのである。的を絞ったほうが楽である。当然のことながら、本提案も、実際に稼動するならば、脂肪がそぎ落とされ(骨抜きではなく)、優先順位を決めて事業が遂行されていくのであろう。ただ、その「ごった煮」感に魅力があり、希望があるのだと、勝手に思い込んでしまったのは私だけだろうか。

○これはもう「街づくり」ではない。

街づくりという枠を超えたものが、この提案書には存在する。周辺地域との連携は欠かすことができないが、その枠を超えた提案が、ここにはある。それは当然のことである。街はコミュニケーションの発火装置である。地域へのベクトルとともに、地域外へのベクトルも向けなければならない。また「input」「output」だけでなく、インタラクティブ性(双方向)も必要である。本提案の実現は、この地域に新たな装置が産まれることを意味している。

○「産みの苦しみ」はつきものなのだ。

とはいいつつ、希望には「産みの苦しみ」がつきものである。この提案事業を実施するための課題は山積みである。客観的にとらえれば、大きく区分し,

運営体制の整備、収益の安定化、プロジェクトの持続的創出化の3点が挙げられる。

運営体制の整備

上記に述べたように、本提案事業はさまざまな利害関係者がさまざまなプロジェクトを創出することを目的としている。それを統括する人材は果たしているのであろうか。学識経験者、専門家が必要なのであろうか。本当に必要な人材は「ゼネラリストのスペシャリスト」というコーディネータである。

収益の安定化

本提案の事業主体は、当然のことながら行政機関ではない。潤沢な資金があるわけでもなく、運営資金は、自分たちの手で稼がなければならない。ディベロッパー収入(テナント賃料など)のみに依存するのではなく、多面的に収益構造の安定化を図る必要がある。

プロジェクトの持続的創出化

どのような仕事もそうであるが、長く続けることは難しい。補助金や助成金を活用しながらプロジェクトを推進していくことになろうが、自主財源によるプロジェクトを創出し、たとえ公益性のあるプロジェクトであろうとも、適正な利潤を生み出すビジネスモデルを構築することが必要である。
どこかで聞いたことがあるような文句ではあるが、この当たり前を当たり前にすることが、希望へと導く処方箋だと考えている。

大隅要(おおすみ かなめ)
1976年生。関西学院大学商学部卒業。支援機関に勤務後、独立。街づくり支援、商品開発といったクライアントワークとともに「政策から製作、医療から衣料」までをコンセプトにさまざまなプロジェクトを展開。といいつつ家業である薬局の経営にも従事し、地域医療を模索する。関西学院大学大学院総合政策研究科前期博士課程修了(総合政策修士)